第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
まだ誰も来ていないうちに、菊丸くんの机にネコ丸のタオルとチョコを置いておく。
そんな私の野望は、学校についた途端、あっという間に打ち砕かれた。
今日に限って、どうしてみんなこんなに早く登校してきてるのーーー?
学校に着く前から、いつもと様子が違うのには気がついていた。
いつも私が登校する時間は、まだ通学路に青学の生徒はまばらなのに、それより早く登校しているにも関わらず、既に沢山の女の子たちを見かけたのだから・・・
もしや考えることは、みんな同じ?、なんて思いながら校門を潜ると、やっぱり何人もの女の子たちが登校する生徒達の様子を伺っていて・・・
「不二くん、まだかな?」
「あー、どうしよう、緊張してきたー!」
必死なその様子はとても微笑ましいんだけど、今は私も余裕が全くなくて・・・
これは、まずいかもしれない・・・
もう既にこんなに人が来ているなら、菊丸くんの教室にだって、誰かきてる可能性が高いよね・・・
そんな嫌な予感はやっぱり当たるもので、案の定、廊下からこっそり覗いた菊丸くんの教室には、既に数人の女の子たちが集まって、菊丸くんが登校する瞬間を、今か今かと待ちわびているようで・・・
こんなんじゃ、私が入っていって、菊丸くんの机に置いてくるなんてこと、絶対出来るはずないじゃない・・・
誰にも気づかれないようにこっそりため息をつくと、菊丸くんの教室を素通りして、自分の教室へと向かった。
それからは、もう一日中、学園内は甘い雰囲気と、チョコの匂いに包まれていた。
アチコチでチョコを渡す女の子たち・・・
本命だったり、義理だったり、友達同士だったり・・・
ソワソワするのは、男女共通で、みんながみんな、浮き足立っている。
そんな中、私だけはバレンタインなんて関係ないって涼しい顔で、いつものように教室の隅で本に目を通す。