第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
・・・でも・・・鉄板の上に並んだ沢山の小さなハート・・・
何これ、すごく可愛い・・・!
ちょっといびつなのもあるけれど、それまでも、なんかキラキラ輝いていて・・・
これを菊丸くんにあげると思うと、尚更、嬉しくて・・・
ああ、そうか、だからお母さんも、お父さんにお料理やお菓子を作ってる時、あんなに嬉しそうなのか・・・
あとは、これをオーブンで焼いて出来上がりっと・・・
余熱を済ませたオーブンに鉄板を入れてタイマーをセットすると、粉だらけになったキッチンに気がついて・・・
お母さんが作るとこんなに汚れないのに、なんて苦笑いしながら、ふーっと大きく息を吐いて後片付けに取り掛かる。
「ただいま・・・どうしたの?、この匂い・・・」
キッチンがあらかた綺麗になった頃、まさかお菓子作ってる?、そう鼻をクンクンさせながら、お母さんが帰ってくる。
あ、おかえりなさい、そうテーブルを拭きながら顔を上げると、目が合ったお母さんは、私の顔をみて目を真ん丸くして・・・
「璃音、あなた、顔中、粉だらけよ?」
「え、本当・・・?」
クスクス笑いながら、お母さんは私の顔をハンカチで拭いてくれて、それから、もしかしてバレンタイン?、そう何か言いたげに含み笑いをする。
「そんなんじゃ!・・・ないわけでも・・・ないことも・・・ない・・・」
お母さんにからかわれて、慌てて否定してみたけれど、恥ずかしくてだんだん声が小さくなる。
そんな私に、やっと璃音から浮ついた話が聞けるようになったのねー!、なんてお母さんは嬉しそうに笑うから、そんなんじゃ、ないもん・・・、そうすっかり熱くなった頬をふくらませた。
「まぁまぁ、良かったじゃない、せっかくの女子高生なんだから、やっぱりバレンタインは張り切らないとね!」
「・・・だから、そんなんじゃ・・・これは、お礼というか・・・」
バンッ!!
その瞬間、突然、鳴り響いた爆発音。
なに?、驚いて振り返ると、オーブンからモクモクと黒い煙が上がっていた・・・