第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
私からって名前は明かせないけれど、あの時のネコ丸を包み込んでくれたタオルと一緒にチョコを添えて、こっそり机の中にでも入れておけば、ネコ丸が今、幸せだってことだけは伝わるよね・・・?
前からタオルは返さなきゃって思っていたし、自己満足でしかないけれど、菊丸くんにバレンタインのチョコをあげる口実にもなるし・・・
「璃音ちゃん、頑張ってね!」
「・・・どこまで出来るかわかりませんけど・・・でも出来るだけやってみます。」
キイッと音を立ててドアを閉めると、そこには冬晴れの澄み切った青空が広がっていて、目を細めてその空を眺めた。
「えっと、材料は分量通り用意したし、バターは室温に戻して、オーブンの余熱も大丈夫・・・」
ペットショップで菊丸くんにチョコをあげようと決意して、そのままスーパーで夕飯の材料を買うついでに、雑誌でみたチョコクッキーの材料を購入した。
市販の方がいいかな?と思ったけれど、お母さんだってお父さんにはいつも手作りのお菓子をプレゼントしているし、大きく書いていた【不器用さんでも失敗しない】と言うキャッチコピーを信じて、やっぱり私も手作りに挑戦することにした。
それで、帰ってきてから、必死にチョコクッキー作りに挑戦しているわけだけど・・・
「ダメ、これは絶対、ダメだってば!!ネコ丸!もう、お前あっち!」
悪戯しようとするネコ丸をキッチンから締め出すと、改めてよしっ!と気合を入れて、きっちり分量通り計った材料の前に立つ。
粉をふるって、混ぜてあわせて、馴染ませて、型抜きして・・・
何が簡単なの!ものすごく難しいんですけど・・・!
雑誌を見ながら、必死にレシピ通りにチョコクッキーを作っていく・・・
不器用なりに、一生懸命・・・
粉は舞い上がるし、何度もひっくり返しそうになるし、予想時間をだいぶオーバーして、すごく大変だったけど・・・