第1章 上
私がこの部屋に連れてこられたのは確か秋になりかけていた頃だったと思うから、実に2ヶ月以上、私は外の世界から完全に隔離されていたことになる。
「こっちだ」
くいっ、と力強く、だが至極優しく私の手を引いて歩くカラ松の後ろを、必死に追いかける。
やっと私が話せたのは、カラ松のポルシェに乗せられてからだった。
「・・・・いいんですか?」
「何がだ?」
「こんなにあっさりと、私を家の外に出したりして。逃げるかもしれませんよ?」
「ん~?」
「私のことを、閉じ込めておきたいのでしょう?」
車を運転する時、カラ松は革のグローブを付けるらしい。
筋張った大きな手に、黒いドライビンググローブが痺れるほど格好いい。その横顔も、普段テレビを見ている時に見せる横顔とは違っていて、これもまた格好いい、などと思ってしまった。
誘拐されておきならが、こんなことを考えてしまう私は変態なのだろうか。それとも、カラ松がサブリミナル的に洗脳をかけてきているのだろうか。
「もちろん、を手放したくなんかないさ。君がどこかに行ってしまったとしたら、俺は狂ってしまうだろう。だがそれでも今は、病院に行かなければならない。例えどんなリスクを冒してでも連れて行く。のことが、大切だから」
一息にそう言い切ったカラ松の横顔は凛としていて、強い決意すら感じさせた。
しかし、それに対して私の内側で生まれたものは、大きなため息と、諦めの感情だった。
(あぁ、この人は。やっぱりどこかがズレている。普通、大切にしたい相手のことは、誘拐したり監禁したりなんてしないのにな・・・・)
慣れた手つきでハンドルを操作しているカラ松の横顔を眺めながら、ぼんやりとそんな事を思った。