第1章 上
「カラ松さん、足首が痒いです」
リビングのソファに腰掛けて新聞を読んでいたカラ松に声をかけると、彼は顔を上げてこちらに視線を向けた。今日は久しぶりの休みなのだ。
「ん~?」
新聞をたたみ、目の前に立つ私の足首に視線を落としたカラ松は、ぎょっとして目を見開いた。足かせをつけっぱなしにしている足首は、上手く洗えないことで不衛生になり、金属でかぶれてしまっていたからだ。足枷のはめられた足首は、見るからに痛々しく赤く腫れている。
「・・・・!いつからこんな事になっていたんだっ?!」
「・・・ちょっと前からです」
「なぜすぐに言わない!!の綺麗な足に傷跡が残ってしまっては大変だ。待っていろ、すぐ外してやる」
そう言うとカラ松は、ポケットから小さな鍵を取り出して、驚く程あっさりと私の足かせを外した。
「病院に行かなければ!!」
言うが早いか、カラ松は私の手を引いて玄関へと歩き始めた。
「え・・・えっ・・・・」
あまりにも急な展開に、思考が追いついていかない。カラ松に引っ張られるがままに、もつれるようにして私は歩を進めた。
ガッチャン、と後ろでドアの閉まる音がして、本当に数ヶ月ぶりに、私は外の空気を吸った。ひんやりと冷えた外気が身体を包む。吐く息が白く染まっていて、季節はすっかり冬になっていたことに気が付いた。