第1章 上
朝の宣言通り、深夜0時を回ってもカラ松は帰ってこなかった。
先に寝ていていいと言われたものの、なんとなく寝付けない。それに早く寝たところで、明日どこかに出かける訳でもないのだから、構うものか。
深夜のバラエティー番組をぼんやりと観ながら、ふと、カラ松がこのまま帰ってこなかったらどうなるのだろうと思った。
カラ松がいなくなれば、晴れて私は自由の身になれる。
まずは足かせを外して、この家から出ていくだろう。そして、仕事とアパートを探して、また淡々と一人で暮らしていくのだ。元通りの生活に戻るだけ。私には家族がいないから、今までもこれからもずっと一人だ。
「・・・・寂しい、かも」
ぼそっと呟いてから、自分でびっくりした。
寂しい?一人で暮らすことが?
確かに、誰かと一緒に暮らすということは、楽しいかもしれない。
食事の美味しさを分かち合える相手がいる幸せ。二人で身体を寄せ合えば、夜のベッドも寒くない。朝起きれば、あどけない寝顔が隣にある。
カラ松と暮らし始めるまでは、誰かと暮らすことがこんなにも心満たされるものだなんて知らなかった。
だが、そもそもカラ松は誘拐犯だ。暴力行為こそ無かったものの、私のことを誘拐・監禁している張本人なのだ。そんな異常者と一緒にいることが楽しいと思ってしまうなんて、私の方こそ異常者ではないか?
そんな思索をぐるぐると巡らせているうちに、いつの間にか私はソファの上で眠ってしまったらしい。