第3章 下
「一松先生っ、たっ、大変なんですっ!!」
今にも壊れてしまいそうな勢いで開け放たれた扉から飛び込んできたのは、髪を振り乱し、荒い息を吐く中村くんだった。
「どうしたんですか」
面談時には落ち着いた印象だった彼のあまりにも取り乱した様子に、自分の机で次の裁判のための資料作りをしていた俺は、びっくりして顔を上げた。
トド松と弱井さんも同様だ。
「彼女がっ、彼女がっ…」
「落ち着いて」
あまりのうろたえぶりに驚きつつも近くに寄っていくと、ガバッと縋り付くようにして腕をつかまれた。
つかまれた腕に彼の指が食い込んで、痛いくらいである。力の加減を忘れるほどに取り乱しているとなると、まずは落ち着かせなければ、話など到底できないだろう。
ガクンと膝をついてしまった彼を、トド松と協力して何とか立ち上がらせると、近くにあったイスを引っ張ってきてとりあえず座らせた。
苦しそうに深呼吸をして息を整えている彼の目には、涙が浮かんでいた。
「彼女がっ、もしかしたらカラ松弁護士のところに行ったかもしれないんです!彼女はまだ助け出されたばかりで、冷静な判断ができる状態じゃないっ!」
そう叫ぶようにして言った中村くんを見下ろして、
(君も十分、冷静な状態じゃないよ)
と心の中で思ってから、俺は車のキーをポケットに突っ込んだ。
「行きましょう。あいつの事務所に」