第3章 下
自宅に戻ってきてから早一週間が経った。
2LDKの我が家は女の一人暮らしにしては広いかな、などと少し得意に思っていた気持ちなど、久しぶりの帰宅によって跡形もなく消し飛んでしまった。
あろうことか今は、
「ちょっと狭いかも」
などと思ってしまっている。
全ての部屋の面積を集めてみても(雀の涙程度だが、玄関と洗面所とトイレも加えておこう)、カラ松の高級マンションのリビングダイニングの広さにも満たないのではないだろうか。
一体いつから私はこんな贅沢者になってしまったのか。
質素倹約を座右の銘にしようかと考えるほど倹約家である私は、物がゴチャゴチャと増えるのが嫌なので、極力物を買わないようにしている。
ミニマリストの方々には到底及ばないものの、買い物をする時には検討に検討を重ねてから購入するようにしている。
あまりにも検討を重ねすぎて、いつの間にか売り切れていたということもしばしばあるくらいである。
1畳も無い玄関には、数える程度しか靴はない。
カラ松の家から履いてきたコンバースの靴に足を差し入れて、トントンとつま先を床に打ち付けた。今日は、中村くんと会う約束になっているのだ。
みんなの認識の中では過酷な監禁生活から生還したことになっている私は、とてもまだ仕事に復帰できる状態ではないだろうということで、未だに休職を続けさせてもらっている。
カラ松が「退職願」ではなく「休職願」にしておいてくれたおかげで、私は無職にならずに済んでいるのだ。頭の良い彼のことだから、そんなところまで考えた上でのことだったのだろうか。