第3章 下
「好きだからだ」
「だから、何で」
ますますいつもの口調に戻ってきているぞ、いちまぁ~つ。
いくら旧知の仲の俺だからと言っても、犯罪者相手にそんなにすぐに気を許してはダメだぁ。
だからつい、俺だって普段の口調に戻ってしまうじゃないか。
「っふ~ん。君は猫が好きだろう?」
ピクリと一松の眉が上がる。
「何故好きなんだ?」
「な、何故って…そんなの…可愛いだろ、アイツ等」
一松は頬を掻きながらボソボソと答えた。その仕草が照れ隠しだっていうことも知っている。
俺はゲイではないが、お前のことは本当に可愛いキティだと思っているんだ。その不器用さは、同性に好感を抱かせる。お前という男は、つい応援してやりたくなってしまうような奴なんだ。
「そう!可愛い!ただ可愛いから、好き。それだけのことだ。相手を好きなことに、理由や条件なんて必要ないだろう。それとも一松は、猫に何か見返りを求めているのか?」
「そんなもん無いわ。ただ可愛い、それだけで十分だろ」
「俺も同じだ。俺は彼女が好きなんだ。それを合理的に説明なんてできない。ただ、この身が燃え上がるように好きなんだ!そう、まさにディスティニー!」
勢いづいて立ち上がり、ついいつもの癖でミュージカル風に叫んでしまった。
「・・・最後のがなければ格好良かったのにな。色ボケ犯罪者松」
「ノー!辛辣すぎるぜ一松!」
一体このバカをどうしたものか、と考えあぐねているのがありありと分かる表情をして、一松はその薄めの眉を少し下げてから、もう一度大きなため息を吐いた。