第3章 下
が一松に連れて行かれてから、すでに一週間ほどの時間が経とうとしていた。
あの後ほどなくしてから、一松が再度俺の事務所へとやって来た。
「自分のやった事がどれほど卑劣な行為だったのか、分かっているの?」
底冷えのするような冷たい声で言われてその顔を見つめれば、その声と同じように冷たく冷え切った黒い瞳と視線がぶつかった。
「お前の事、痛い奴だと思っていたけれど、尊敬していた。だけどお前は俺を、いやお前を信じてくれている人達全てを裏切ったんだ」
一松が努めて冷静に、気持ちを落ち着かせながら一言一言を選びながらゆっくりと話しているのがよく分かった。
裁判の時だって、いつだってお前はそうやって理性的であろうと努めていたな。本当は激情型である自分をきちんと理解して、その感情の怪物を檻から出さんとして必死に踏ん張っている。
お前のそんなところを、俺はとても好ましいと思っているんだよ。
「彼女次第だけど・・・もしも彼女が警察に訴え出たら、お前は間違いなく逮捕される。弁護士の資格も剥奪される。執行猶予なんて当然付かないし、そうなったらお前、刑務所に入るんだよ?そのこと分かってんの?」
それでも何も言わない俺に、一松は大きく息を吐いた。
深呼吸をする息遣いが微かに聞こえてきて、そうすることで昂ぶった感情を落ち着かせようとするのがお前のクセなんだよなと思っていたら、案の定少しだけ普段の口調に戻った一松が言った。
「なんで、そこまで彼女に執着するの?」
じいっ、と見つめてくる瞳を見つめ返した。