第3章 下
職場も自宅も、私がいつでも帰れるように完璧に保管してくれていたカラ松の真意は分からない。
失踪事件としてメディアに取り上げられないようにするための単なる隠蔽工作だったのか、それともいつかは私を開放してくれる気でいたためなのか。
いつだったか、「いつまでこの監禁生活は続くのですか?」と聞いた時の、カラ松の顔を思い出す。結局あの時は私が泣き出してしまってうやむやになってしまったけれど、今にして思えば、カラ松の笑顔はどこか寂しげだった。
そんな事を考えていたら、いつの間にか両目には涙が溜まっていて、瞬きをした瞬間にポロポロとこぼれ落ちた。
玄関に立ち尽くしたまま、声も上げずに泣き始めた私に気づいた弱井さんは、少し驚いた顔をした後、その宝石のようにキラキラと光る大きな瞳を少し潤ませて、私の身体をそっと抱いてくれた。
「大丈夫ですよ。貴女はもう、自由なんですよ」
心地よく響いてくる優しい声に耳を澄ませながら、私は涙を流し続けた。
(ごめんなさい、弱井さん、一松弁護士さん。違うんです。そうじゃないんです。)
だけど、キュッと締まった喉の奥からは小さな嗚咽しか漏れてこなくて、私は何も言えないまま、彼女の柔らかな腕の中で赤ん坊のようにただ泣き続けるしかなかった。