第3章 下
カラ松は私を誘拐・監禁した後、どんな手法を使ったのか分からないが私の職場に休職願を出して、アパートの大家さんにも「長期間家を空けるが、心配しないでほしい」と言って家賃をまとめて支払って行ったそうだ。
家に戻ってきてから少し落ち着いた頃、一松弁護士との面談の時にそう教えられた。
清潔に保たれたこの部屋を見れば、彼が定期的にここを訪れて掃除をしてくれていたことなど容易に分かる。 チリひとつなく完璧に掃除された室内を見ていると、几帳面な彼らしく細々と掃除をしている姿が目に浮かぶようだった。
色々な事が分かってくるにつれて、カラ松の鮮やかすぎる手口に、今更ながら舌を巻くような思いがした。
カラ松は、私の世界を完璧に保管してくれていたのだ。その周到な根回しがあったからこそ、突然消えた私のことを不審に思う人間が出なかったのだろう。家族のいない私には、急に姿を見せなくなったからといって、それを気にかけてくれるような人はいない。
ただ一人、中村くんを除いては。
彼とは配属されたのが同時期であったため、同僚の中では比較的よく話しをした。
年上ではあったけれど、人懐っこそうな笑顔が可愛いと思っていたし、私のような根暗女にも明るく声をかけてくれる親切な人だと思っていた。
一松弁護士に私を探すように依頼したのも彼だと言うし、一体どれだけ親切な人なんだろう。あの心優しき青年に、どうか幸があらんことを願うばかりだ。