第2章 中
そんなグズグズに溶けてしまいそうなほど幸せな日々を送っていたのに、それが一体何故、こんな状況になっているのだろうか。
「何故、カラ松弁護士と一緒にいるのですか?」
目の前で問うてくる一松の表情は限りなく無に近くて、その声からは何の感情も感じ取れない。だが、背広の上着の影からチラリチラリとのぞくしっぽ?は、まるでびっくりした猫みたいにボワボワに広がっていたので、彼が今どんな心境でいるのかは滑稽なほどによく分かった。
「私は・・・」
まだ床に寝転んで、私の膝に頭を乗せているカラ松の顔を思わず見下ろした。
誘拐されたからです。
これは紛う事なき真実であり、実際私は今までカラ松に身体的な自由を奪われて監禁されていた。だが、確かにきっかけはそうだったかもしれないけれど、その後の生活については私の選択によるものであったのもまた、間違いなく事実なのである。
逃げようと思えば、いくらでも逃げられた。
足かせのせいでかぶれた足を病院に診せに行ったあの日、油断している彼を押しのけて車から飛び出すことができたはず。
ベランダに出ることが許された時、大声で助けを求めることができたはず。
インターネットの使用は制限されていなかったのだから、何らかの方法でSOSを発することができたはず。
カラ松と遊びに出かけた時、周囲の人々に助けを求めることができたはず。
数えあげればキリがないほど、私にはチャンスがあった。 だけどそれをしなかったのは、・・・しなかったのは、何故だろう?