第2章 中
カラ松はたった一人で事務所を切り盛りしているから、他に職員は誰もいないらしい。「家の延長線のようなものだからラフな服装で来るといい」という言葉に甘えて、私は履きなれたスキニージーンズに、青と黒のチェック柄のシャツ、コンバースのスリッポンという、いささかラフすぎる格好に着替えて、スーツをパリッと着こなしたカラ松の腕に抱きついた。
「そのシャツ、気に入っているのかい?」
「とっても」
実はこのチェック柄のシャツは、カラ松の服なのである。背の高い彼でさえ少しゆったり目のシャツを、私のような小女が着れば、それはもはやワンピースである。長すぎる袖はロールアップして、パカパカする胸元から貧相なものが見えないように灰色のタンクトップを着れば、見事な寒色コーデの出来上がりである。
もともと私は明るい色合いの服を着ない。暖色系の可愛らしい服など、手に取るのですら躊躇してしまう。だから私のクローゼットは、まだ20代の女性のものとは思えないほど暗い・・・もとい落ち着いた雰囲気である。
一点、場違いな輝きを放っているものがあるが、あれは服ではなくインテリアである。そう思うことにして一度も袖を通したことはない、カラ松からの贈り物のクソタンクトップ。
部屋のインテリアから自身の服装のチョイスまで、全てにおいてセンスの良い人だと思っていたが、ワンポイントで選ぶ小物だけは核弾頭レベルに危険なシロモノばかりだということに気づいたのは、この服?を贈られた時だ。あの時ばかりは誘拐された時とはまた違った意味で、「この人、マジか?」と思ったものだ。
とにかくこんな、全体をラメで覆われて凶暴な光を放つ布を身につけることなんてできない。ディスコのお立ち台で踊っていたお姉さま方だって、絶対に着ないだろう。扇子の代用にはなるかもしれないけど。でも、それだと湘南の●みたいになるか。