第1章 上
カラ松の職業は、なんと弁護士だ。
弁護士が誘拐をするなど、にわかには信じ難いが、実際にやってのけた人物が目の前にいるのだから信じざるを得ない。
でも、いくら好きだからといって、普通誘拐はしないだろうし、法に携わる職にある者がするべき事ではないと思う。 よって、何度も言うが、カラ松の頭がおかしいのは疑いようもない事実なのである。
しかし、人間性には疑問だらけの彼であるが、仕事の方ではとても優秀であるらしく、先輩弁護士の事務所で数年間の下積みをした後に、まだ20代であるにも関わらず、独立して個人事務所を構えるに至っている。仕事の依頼もそれなりに来ているようで、毎日忙しそうだ。
ふと気づけば、優しい瞳で見つめられていた。
「、今日は少し遅くなるかもしれん。俺のことは気にせず、先に寝ててくれ」
「分かりました。あ、夕食はどうしますか?遅くなるなら、外で済ませてこられますか?」
「いや、の料理が食べたい。どんなに遅くなっても必ず帰ってくるから、作っておいてほしい」
「はい」
こくん、と頷くと、カラ松はニカッと白い歯を見せて笑った。
その笑顔はまるで少年のようで、朝日の中で笑うカラ松は、誘拐なんて後ろ暗いことをするような男には到底見えなかった。