第2章 中
「でも、だったらカラ松弁護士のところに直接行けば良かったんじゃないですか?」
「それは・・・」
俺の目をまっすぐに見て話していた彼が、急に口ごもって下を向く。俺は人の感情の機微には疎いほうだけど、これは何となく分かった。
「失礼ですが、彼女とは恋人関係だったのですか?」
途端にガバッと中村くんは顔を上げた。その両耳は少し赤くなっていて、水から引き上げられた魚のように口がパクパクと動いている。
「こっ、恋人だなんて、僕はただの同僚で・・・でも、彼女とはよく話していたものだから・・・」
あ、これは片思いをしていたパターンだな、と鈍い俺でもピンときた。それほどに、中村くんのうろたえ方はあからさまだった。つまり、恋敵であるカラ松には聞きにくいという事なのだろう。
「分かりました。今度カラ松弁護士のところに行ってみますよ」
「本当ですか!ありがとうございます、一松先生!」
ぱあっ、とまるで子どものような無邪気な笑みを浮かべて中村くんがお礼を言う。何度も頭を下げるたびに、少し長めの前髪がサラサラと揺れた。