第2章 中
依頼に来たのは、20代後半くらいのやたらと身体の引き締まった男性だった。パッチリとした目元に、笑うと少しだけ幼く見えるところが、同性の俺から見ても可愛いと感じるような青年だ。名前は中村、市内の赤塚図書館で司書をしているらしい。
「人を探してもらいたいんです」
そう言って彼は、斜めがけのカバンから写真を取り出して見せた。
「こんな事、本来は弁護士の先生にお願いすることじゃないと思うんですが、少し心当たりがあったもので・・・」
「心当たりというのは?」
中村くんが、ゴクリと唾を飲み込むのが分かった。
「俺の思い過ごしかもしれないんですが・・・、彼女がいなくなる前、松野カラ松という弁護士が来ていたんです。カラ松先生は前からよくウチに本を借りに来ていて、彼女ともよく話していました。あの日は閉館間際に来て、その後彼女と二人で出ていくのを見かけたんです。そしてその日以降彼女は出勤しなくなってしまって、カラ松先生もほとんど来なくなったんです。前は週に3~4回は来ていたのに、ぱったりとそれが止んで」
「そうなんですね」
唐突に、よく知る人物の名前が出てきた事にいささか驚きもあったが、そこはやはりプロとして表面上は努めて平静を装う。
「で、その松野カラ松がどう関係していると?」
「それは・・・分かりません。でも何かあったんじゃないかと、そんな気がするんです。それから一年近く様子を見ていましたが、カラ松先生は彼女がいなくなって以来ほとんどウチに来なくなりました。そして彼女は、特に何かに悩んでいた様子もなければ病気にかかっていた訳でもないのに、突然長期間仕事を休んでいる。携帯に何度連絡してもつながらないんです。休職の理由を上司に聞いても、“家庭の事情だから”としか教えてくれなくて。でも・・・何の根拠も無いし、ただの勘としか言えませんが、カラ松先生が何か事情を知っているのではないかと思うんです。それで、友人の弁護士に相談したら、松野一松先生なら松野カラ松先生と仲が良いよって言われたもので・・・」
中村くんが出した「友人の弁護士」の名前を聞いたら、以前勤めていた事務所の後輩だったから、あいつ今どうしてるかな、何て少しだけ懐かしく思った。