第2章 中
「お茶をどうぞ」
唐突に、目の前に紅茶の入ったカップが差し出されて俺は思わず飛び上がってしまった。
カラ松は大抵のことは何でも自分でこなしてしまうので、事務員などは雇っていないはずだ。来客時のお茶の用意にしろ事務所内の掃除にしろ、どこの家政婦派遣会社から来た方ですか?と思ってしまうほどの高レベルでこなしてしまうのだ。それでいて本業の弁護士業をあそこまでやれるんだから、本当に大したものだと思う。
カラ松の前にも湯気のあがるマグカップを置いている女性を思わず見つめてしまい、そして何だか非常に見たことのある顔だなと思った。
「・・・ん?・・・えっ?!」
テーブルに置かれた写真と目の前に立つ彼女を、顔を上下させて高速で見比べる。きっとその時の俺は、音に合わせて踊るダンシングスピーカーみたいな動きをしていたと思う。もしくは、ロックライブでヘッドバンギングをしている若者。いずれにしても、普段のっそりと動くことの多い俺がこれほど素早い動きをする事は滅多にない。
「え、えぇっ!?何でここに・・・?!!」
そしてこれまた、普段はボソボソと小声で話す俺にしては珍しすぎる、大きな声が喉の奥から飛び出した。
カラ松の横に立っている女性は、今まさに俺が探しているその人であったからだ。