第2章 中
「相変わらず派手な事務所だな」
広い事務所内の一角に置かれた応接用のソファに腰掛けて部屋を見回した時、思わずそんな感想が口からこぼれ出てしまった。
カラ松の事務所は、いわゆる法律事務所のようなお堅いイメージは全くなくて、まるでインテリアのショールームのようにスタイリッシュにまとめられていて、シンプルな中にも個性を感じられる家具や事務用品が並んでいた。
(それだけなら、クリーンで明るい雰囲気だし客も気持ちよく相談できるだろうと思うんだけど・・・)
洗練された空間の所々に、明らかにカラ松の趣味丸出しの品々が置かれているので、俺が「派手な」と言ったのはそういう部分を指している。悪いことは言わないから、キラッキラにデコレーションされた額縁に入れた肖像画は早く燃やした方がいい。
「お前から来るなんて珍しいじゃないか」
俺の正面のソファにドサッと腰をおろしたカラ松が、気心の知れた俺にだからこそ見せる、少し気のゆるんだ笑顔を浮かべた。
「ちょっと面倒な依頼を受けちゃってね。人探しを頼まれたんだ」
「人探し?一松がやるのか?」
「そ。弁護士の仕事じゃねーっつの。でも、依頼人が知り合いのツテで来ててね。だからあんまり無下にも断れないんだよ」
「ほー」
特段俺に同情してくれている風でもなく、かと言って全く興味が無いといった様子でもない感じで、カラ松は返事をする。
「探し人ってのは、赤塚図書館で司書をしていたっていう女性なんだ。依頼してきたのは、同僚の司書。一年くらい前、急に出勤しなくなったと思ったらその後すぐに休職願いが出されて、それから全く連絡が取れないらしいんだわ」
依頼人から女性の写真を預かっていたことを思い出して、俺は胸ポケットの中をゴソゴソとまさぐった。何だか俺、刑事みたいじゃね?
「それがこの女性なんだけど、何か知ってる?お前、赤塚図書館にはよく行くって言ってたから、顔くらい見たことがあるんじゃないの?」
胸ポケットから引っ張り出した写真を、なめらかに磨かれたダークブラウンのローテーブルの上に置くと、さっきまであまり興味がなさそうだったカラ松が、身を乗り出してしげしげと覗き込んできた。
「可愛いな」
顎に手を当ててつぶやくように言われたそのセリフに、正直俺は少し意外な驚きを感じた。