第2章 中
「はぁ~、めんどくさ。あいつ、イッタイから会うのヤなんだよな」
『松野GREATカラ松弁護士事務所』と掲げられたドアの前で、何年もまともにクシを通していないようなボサボサ頭を掻いて、一松は独りごちた。
一松とカラ松は、過去に裁判で対決したことが何度かあり、勝敗は今のところカラ松の方が一つ勝ち越している状態だ。若く才能溢れる二人だからこそ通じる世界というものがあり、互いの実力を認め合うのにそれほど時間はかからなかった。
カラ松の弁護は、芝居に例えられることが多い。彼は裁判という「舞台」を縦横無尽に駆け回って、泣き、笑い、己の熱いパッションを叫ぶ。主人公は被告ではない。あくまでも自分という「役者」が主役なのである。その異様なテンションに圧倒され、大抵の相手はひるんでしまう。だがそうなった途端、カラ松は今までの狂人の仮面を華麗に投げ捨てて、突然理路整然とした弁論を叩き込み、相手が呆気に取られているうちに勝利をもぎ取ってしまう。
かくいう一松も、初戦はそれでやられた。
裁判の時の奴の目は何だかグルグルしていて怖いんだよな・・・、などと思いながら、負けず嫌いの一松は、次に対決した裁判では「666」の数字が入った紫色の勝負ネクタイをしめて、闇オーラ全開でカラ松を蹴散らした。
それ以来、互いをライバルと認め合い、勝ったり負けたりを繰り返しながら切磋琢磨しながら交流を続けている。個人事務所を構えたのは一松の方が早かったので、独立するときカラ松はよく一松に相談したものだった。
しかし、友人として仲がいいかと言われれば、それはまた別の話なのである。