第2章 中
松野一松は、弁護士業界では有名な若手敏腕弁護士だ。
彼はまだ学生だった時分に早々に司法試験に合格すると、鳴り物入りで大手の弁護士事務所に就職した。
だが、その独特のコミュニケーション方法と、群れることを良しとせずに職人気質で仕事に取り組む姿勢が、職場の雰囲気になじまなかった。
裁判をやらせたら、文句なしの負けなし。だが、その切れすぎる頭のおかげで図らずもことごとく周囲とのつながりを切断していった彼は、当然の帰結として職場で孤立した。
周囲のことなどお構いなしでマイペースに突き進む信念を持ちながら、その実ガラス製のハートを隠し持った一松にとって、針のむしろのような職場環境は耐えられるものではなかった。それならばいっそ自分の事務所を構えたほうがいいと思い立って、バイクは盗んでいないが走り出した。
それがもう何年前のことになるか。