第1章 上
「・・・え?」
視線を落とせば、私の左足には、今までの人生の中で一度も見たことのない、物々しい足かせがはめられていた。
その足かせを、カラ松が慈しむように優しく撫でていた。
「カラ松・・・さん?」
ドクッドクッ、と胸が苦しいほど脈を打ちはじめる。
「今から、貴女は僕のものだ」
するりと、背中にカラ松の手が回される。
「そうだろう?」
にっこりと微笑んだその顔は、先程までの非の打ち所のない好青年の顔から一変して、狂気に満ちた男の顔をしていた。
「、愛しているよ」
私の唇に、カラ松の唇が重なる。
背中にあったはずの手が、いつの間にか服の中にまで侵入してきていた。
逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ。
頭の中で大音量でサイレンが鳴り響いている。この男は、常識人を装って近づいてきた狂人だ。抵抗しろと、頭の中で、もう一人の私ががなり立てている。
なのに、私の身体はピクリとも動いてくれなかった。それは恐怖と、・・・自分でも信じがたいことだが、喜びのせいだったのかもしれない。
カラ松の行動は、明らかに常軌を逸している。なのに、そんな異常な行動とは裏腹に、私に触れてくる彼の手は、まるで繊細なガラス細工を扱うかのように優しく、丁寧だった。
目の前で夢中で私にキスをするカラ松の瞳は、喜びでとろけた様になっている。
頭が良くて、ルックスも良くて、社会的な地位もある彼のような非の打ち所のない人間が、路肩に転がったちっぽけな小石のような私のことを求めてくれるというのか。
そう思ったら私は・・・、彼の行為を拒絶することができなくなってしまった。