第1章 上
カラ松に連れられてやってきたのは、夜景の見える可愛い雰囲気の店だった。高級すぎず、安すぎず、仕事帰りのカジュアルな格好でも問題なく入れる、とてもちょうど良い店だった。
ここでもしも高級な店になど連れて行かれていたら、きっと尻込みしてしまっただろう。
だがカラ松は、今日が初めての食事であること、私が仕事帰りのわりとラフな格好であることなど、色々な事を考えた上でこの店を選んでくれたに違いない。そのセンスの良さや、気の使い方に、思わず感心してしまった。
カラ松との食事は楽しかった。彼の話は機知に富んでいて、ユーモラスで、だけどどこか品があった。
くるくると豊かに変わる表情を見ながら聞く話は、時間を忘れさせるほどで、金曜の夜ということもあって、気が付いた時には22時を回っていた。
そして、楽しい雰囲気にあてられて普段は飲まないお酒に手を出してしまった私は、ふわふわと夢見心地で、とても一人で帰宅できるような状態ではなかった。
「大丈夫ですか?家まで送りましょう」
「すみません・・・」
心配そうな顔をしたカラ松に肩を抱かれ、店を出る。そして、彼の車の助手席に腰を落とした時には、もう意識を保っていられなかった。