第1章 上
足がかぶれた一件以来、足かせは外されたままになっている。
病院からもらってきた薬を、毎日朝に晩にとカラ松が丁寧に塗ってくれるので、症状は随分と良くなってきた。赤みはとっくに引いて、もうほとんど傷跡も分からないくらいだ。
なのに、カラ松は足かせをつけようとはしない。それどころか、以前よりも自由に動くことを許してくれるようになったのだ。
以前は足かせをつけていても、ベランダに出ることは禁止されていた。高層階の部屋なので、ベランダに出たところで私にどうこうできるものではなかったが、やはり屋外なのでカラ松はとても嫌がった。
それが今は、足かせもつけずに部屋中どこに行っても良くなった。おまけに、カラ松の休みの日には車でドライブにも連れて行ってもらえるようになったのだ。もちろん拘束具無しで、だ。
相変わらず一人での外出は許されていないし、毎朝何重にも鍵をかけて出勤していくのも変わらない。
でも、それでも確かに、カラ松は変わった。一体どうしてこんなに変わったのだろうか。
ふと、そんなことを考えたとき、思い当たる事なんて一つしかなかった。
おそらく病院に行ったあの一件の時に、私に逃げる意思がないこと、カラ松を好いていることが伝わったのだろうと思う。
それまでカラ松は、騙すようにして連れてきた私が、いつ脱走するか気が気ではなかったのかもしれない。だから、自分の元から私が逃げ出さないように縛り付けていたのだろう。
だがあの時、逃げようと思えばいくらでも逃げられたのに、私は逃げなかった。それどころか逆に、カラ松を天に昇らせるような言葉を囁いた。