第8章 チョコより甘く
「あのさ。なんで僕は月島君なのに、アニキの事は名前呼びするワケ?」
「だ、だってそれは!この前あった時に月島君のお兄さんって呼ぶのは長いから、明光君でいいよって言われたし」
ほら、また兄ちゃんを名前で呼ぶ。
「へぇ~、キミは言われたら何でも従っちゃうってワケ?」
「そんな事ない!···と、思う」
「曖昧すぎ。キミは誰の彼女?」
「月島君の、です」
返ってくる答えは分かりきってるのに、やっぱり呼び方が気に入らない。
「誰の、かな?」
「だから、月島君···蛍くん、の···です」
顔を真っ赤にさせながら僕の名前をたどたどしく呼ぶキミは、それだけで僕のご馳走に変わる。
「ねぇ、僕のお願い···聞いてくれる?」
「お願い?···分かった。けど、お願いって?」
分かったって、言ったよね?
「これ、僕に食べさせてよ?彼女なんだから、できるでしょ?」
箱に結び付けられたリボンをスルスルと解き、フタを開けていく。
中から出てきたのは、いかにもそれっぽいハート型をしたチョコレートケーキ。
「ほら、早く食べさせてよ」
フォークを掲げて手渡せば、受け取るキミの手が微かに震えている。
「じゃあ、はい···あ~ん···」
緊張と動揺が重なり合うキミの顔を見ながら、差し出されたケーキをパクリと頬張る。
「どう、かな?」
「ま、キミにしては及第点なんじゃない?」
「及第点···」
ウソ。
ホントは美味しい。
でも、キミの困った顔が見たくてわざと意地悪な感想を伝える。
「これさ、味見ってしたの?」
「え?!い、一応何回も練習したから、味見はしてるけど···好きな味じゃなかった?!」
「じゃあ今度は僕が食べさせてあげる番ね。はい、口開けて?」
「は、恥ずかしいからムリ!」
ここには僕達しかいないんだから早く、そういう視線で見つめ続ける。
言葉なんか、いらないデショ?
だってキミは、僕の彼女なんだから。
それとも必要?
キミを惑わせる···魔法の呪文が。
僕は別に、どっちでもイイけどね。
さぁ···キミはどうして欲しい?
でも、さっかくだから呪文を唱えてあげる。
取っておきの呪文をね。
「はい、アーンして?」
含み笑いを浮かべながら、小さく呪文を唱える。
「だ、だから恥ずかしいから!」