第2章 チョコレート・パニック
ポツリポツリと話し出す春華の言葉を、オレは何も言わずに黙って聞いていた。
「だけど、同じ学年の子とかがクロの事を話したりしているのを聞いて、私のクロなのにって思ってイライラしたり。だから、研磨にも愚痴を聞いて貰っ」
「研磨にか?!」
黙って聞いてようと思っていたのに、予想もしてなかった名前が飛び出し慌ててしまう。
「ダメ、だった?」
「いやそうじゃねぇけど」
研磨にグチるとか、1番そういうのに適さないタイプじゃねぇのか?!
だって、なぁ···研磨だぞ?
「で、研磨はなんて?」
当然と言えば当然だが、愚痴を聞かされ続けた研磨の返答が気になる。
「研磨は···私の思うようにしたら?って」
デスよねー···
「だから自分で考えて、今年はチョコ渡すの···一人だけにしたんだけど、でも、難しいよね?3人とか、幼馴染とかって」
「は?」
「見事に玉砕、しちゃった···だから、さっきのはもう忘れて?」
「待てって。念の為に、だけど···オレ、断った?」
オレの記憶がおかしくなけりゃ、まだ何も言ってないハズだけど?
「まだ、な~ンも言ってねぇよ、な?」
「でも!やっぱりダメかな?って思ったし···ずっと妹みたいに思ってくれてたのに、変、でしょ···」
「思ってねぇよ」
妹みたいだと思ってたのは、とっくの昔の話だ。
「え?」
「春華の事、妹だなんて思ってない。だから、これはオレがありがたく頂くって事で?」
「···クロ?」
「お前はこれからも···い~や、これからは特に···オレの一番近くにいて、笑ってろ」
仕舞いかけたサプライズをスッと受け取り、空いた手で頭を撫でる。
「クロ···じゃあ···」
「クロじゃない、だろ?」
「でも、クロ?」
「だ~か~ら!クロじゃないっての。ほら、あんだろ?オレの彼女にしか呼べないって言ってた、呼び方が」
いつの間にか呼ばれなくなった、小さい時から慣れ親しんだオレの呼び方。
いつだって、その呼び方でお前がオレを呼んでたのに。
気が付いたら、呼ばれなくなってた···呼び方。
「私で、いいの?」
「お前がいいんだよ、オレは」
「クロ···」
「クロってのは、どこの誰でしょうかね~?」
わざとらしく両手を広げてニヤリと笑う。
ほら、早く呼べよ?