第2章 チョコレート・パニック
「ここにいるのは、誰でしたっけ?ん~?」
ひょいっと屈めて顔を覗けば、少し困った顔を見せながら目を泳がせる春華。
「誰でしたっけ?」
耳元でもう一度、大げさなくらいに吐息たっぷりに囁けば、春華はピクリと肩を震わせた。
「もぅ···意地悪しないでよ···鉄ちゃん!」
「合格~!」
小さな体をグッと引き寄せ、欲しくてたまらなかったその温もりを胸に押し付ける。
「鉄ちゃん···」
「なんで泣くんだよ」
「だって、嬉しくて···」
昔から変わらない、泣き虫なところ。
昔から変わらない、オレを呼ぶ声。
きっと、これからも変わらない···お前の存在。
「私···鉄ちゃんが好き」
その言葉に、オレの胸が大きく跳ねる。
「知ってる···春華、オレもお前がスキだ。今までも···これからも、な」
抱き寄せる腕を縮め、更に距離を詰めれば。
離れた場所から夜久の悲痛な叫びが聞こえて来る。
あぁそうだ、上にはリエーフもいたんだっけか。
これからはちょっかい出されたら困るからな。
春華はオレだけのモンだって、クギを刺しとかねぇとな。
「春華?ちょっとオレの顔を見ろ」
「鉄ちゃん?」
「オレをちゃんと呼べたご褒美だ」
頭をかき寄せ、風に揺れる前髪をあげてそこに口付けた。
リ「あぁぁぁぁ!!!黒尾さんっ?!」
「えっ?!リ、リエーフ?!」
あまりの叫び声の大きさに春華がリエーフに気が付いた。
「リエーフに見られた···」
「い~の、見せたんだから」
言いながら校舎の窓を仰ぎ、リエーフに向けて思いっきりVサインを掲げてやる。
ポケットのスマホがメッセージの着信を告げ、画面を見れば。
ー リア充爆発しろ リア充爆発しろ リア充爆発しろ ー
夜久からの···呪いの呪文が連なっていた。
「あ、ヤベ。オレ呪われたかも」
「え、なに?!」
ま、いっか。
「なんでもねぇよ。ほら、部活行くぞ?」
小さな手を掴み、本来行くべき場所へと歩き出す。
体育館行ったらスゲー追求されんだろうなぁなんて思いながら、オレは春華の手をしっかりと繋ぎ直した。
~ END ~