第2章 チョコレート・パニック
何より都合が悪いのは、アイツの相手をオレが見てしまうってコトだ。
···あまりこの手は使いたくないが、緊急事態だ。
夜「あ、おい、クロ?!」
何食わぬ顔で、声だけ掛けてみよう。
こんなトコでなにやってんだ?と、それだけ言って···大丈夫、ポーカーフェイスは得意じゃないか。
いつだってお前に気付かれないように、心にフタをして来たんだから。
1歩ずつ春華に近寄りながら、徐々に、少しずつ、アイツが慕うクロの顔を作る。
わざと足元の砂利を力強く踏んで、オレはここだと存在を示す。
「クロ···?」
「よ、こんなトコでなにやってんだ?」
「え?あ、うん···人を、待ってた」
···だろうな。
視線だけ動かせば、夜久もリエーフも目をギラギラとさせてオレ達の様子を見てる。
「あぁ~、アレか?お前が呼び出したってヤツね。そりゃ悪かったな、邪魔しちまって」
何となく感じる居心地の悪さに、おどけるように笑ってやる。
「そんじゃ、お邪魔虫のオレは先に部活行ってんぞ?」
お前も遅れんなよ?って、言おうとして春華の顔を覗けば、黒目がちな目が···ひと揺れした。
「クロを···待ってたの」
「へぇ~、オレをねぇ···え?はっ?!」
なんでっ?!
動揺に動揺を上乗せするオレに、春華がカサリと音を立てながら可愛らしくラッピングされた物を差し出した。
「これ、今年はクロに渡したくて」
今年は?
クロに···渡したくて?
クロって、クロだよな?
オレ、だよな?!
唖然として口をパクパクとさせるオレを見て、春華が悲しげに俯いた。
「やっぱり、迷惑だよね。ゴメンねクロ、今のはナシで」
そう言いながら出したばかりの包みをカバンにしまおうとする春華の腕を咄嗟に掴む。
「ちょっと、確認するけど。オレ宛てにメモ書き入れたの、春華か?」
ポケットから取り出して春華に見せると、コクリとひとつ頷いた。
「お前···噂によると、本命にしか渡さないって聞いたけど?」
あの日リエーフが騒いでいた話を思い出し、尋ねてみても春華はまたひとつ頷く。
「小さい時からずっと研磨と3人一緒で、クロはお兄ちゃんみたいで···でも、段々お兄ちゃんみたいな存在なのがモヤモヤして···」