【YOI・男主×ユーリ】扉の向こうとこちらのエロス
第4章 エピローグ
一時は、些末な誤解から気まずくなっていたユーリと礼之だったが、それも競技終了後のバンケットで氷解した。
最終的な繋がりこそなかったものの、互いの想いと肌の熱さを知った今では、やがて訪れる別れに対して単なる寂しさだけでなく、言い知れぬ恐れのようなものを感じていたのだ。
「ユリは、もう食べちゃった?」
「あ…いや、ここに」
礼之同様、上着のポケットから少々形が歪になっているキスチョコの包みを出すと、手の平に乗せる。
「じゃあ、今から一緒に食べようか」
それを嬉しそうに見据えながら、礼之はチョコの包み紙を開けると、中身をユーリの眼前にかざした。
「こんな所で野郎2人が食べさせっこかよ」と一笑に付すつもりでいたユーリだったが、礼之の穏やかだが真剣な表情につられるように、取り出したチョコを彼の口元へと運ぶ。
ユーリの指が、軽く押し込む形で礼之の口中へキスチョコを落とすと、初めてのキスの時と同じカカオの甘味が広がったが、少し間を置いて礼之の胸に何かが突き刺さるのを覚えた。
これまで味わった事のなかった胸の疼き。
それは、微妙な関係だった頃とは異なり、ハッキリと互いの想いを確かめ合ったが故のものであった。
愛しい恋人と離れなければならない悲しみと寂しさが、礼之を苛んでくる。
(…ダメだ。これからこんな別れは何度も訪れるのに、その度に弱音を吐いていたらユリを心配させる)
心中で叱咤した礼之は、小さなチョコの粒を己の胸の痛みと共に飲み込んだ後でユーリを見たが、
「ユリ…?」
そこには必死に口元を押さえて声を殺しながら、瞳に涙をいっぱいに溜めている恋人の姿があった。
「くそ…っ、俺、どうして…?何でもねぇんだ礼之、な、何でも…」
礼之から最後のキスチョコを口に放り込まれたユーリは、チョコの甘さとほろ苦さに続いて、得も言われぬ負の感情に囚われてしまったのだ。
それは、幾ら己の本心を偽ろうとしても叶わぬ恋人となった男との別れに対する素直な感情であり、涙となってユーリの頬を濡らし始めている。
経験した事のなかった心の痛みを持て余しているユーリに近づいた礼之は、彼の身体を抱き寄せた。