第2章 -新しい日々
気になっていたセレネの表情も医者の診せたところ
一部の記憶がなくなっているせいだと分かった。
言われた通り 段々と表情も豊かになり ニコニコと愛らしい顔を見せてくれる事が多くなった。
気がつけばゼノを「お兄様」と呼ぶようになり
慕い、常に身を案じ甲斐甲斐しく世話をやきシュタイン城では、ついて回っていた。
部屋もゼノの隣をセレネの私室にしていたが 寝る時は、ゼノの布団に潜り込むほどだった。それは、新王政になってもなかなか変わらなかった。
手放す事を考えたこともあったが
アルバートとユーリに猛反対されたのだ。ユーリは、世話焼きだから分かるが アルバートからしても 自分にニコニコ花のような笑顔を向けられ 《お手伝い》をする姿が可愛かったのだろう。
ゼノにもユーリにもアルバートにも兄弟がいない。
まあ、ユーリとアルバートが兄弟のようなものだが…
「お兄様」と呼ばれ その笑顔の殆どが自分に向けられ 自分の真似をしたりお菓子を作って待っていたりとゼノが愛しく想い癒されないはずがなかった。
セレネがシュタイン城での暮らしに慣れてきた頃には、身の回りの世話をする【マリア】を付けた。
親程の歳がいっているだろうか…元々、シュタイン城で働いていたのだが セレネが懐いたこともあって頼んだところ 快く引き受けてくれた。
将来も考え マナーや作法、ダンスに語学、座学やピアノ、多少の武術も身につけさせた。
武術を教えたのは、ゼノたちである。
マナーや作法にダンスも元々身についていたのか 問題なくこなしていた。それでも練習を怠らず どんどん美しい仕草を覚えていった。
くるくる変わる表情、花のような笑顔、澄んだ可愛らしい声、人を気遣う心配り、料理やお菓子を作ることを好み マリアに教えてもらい裁縫も覚えていたりと 多彩な才能を持っているようだった。
ゼノのみならず セレネに癒されている人は、シュタイン城でも数多くいた。
髪の色や目の色がゼノの同じであることからも【若き国王ゼノの妹】と疑う者は、殆どいなかった。
十年も経てば、セレネを城下から連れてきたと知るものは、ほんのわずかで 知っているものもゼノやアルたちの信頼のおけるものだけになっていた。