第17章 -揺れる気持ち
ゼノ様もアルも暫くふさぎ込んでたらしい。
公務があるから 顔に出さず仕事してたらしたけど。
俺のことだって 責めることもしなかった。
責めてもらえた方がよっぽど楽だったけど…優しい方だからね。
斯く言う俺も 荒れたけどね…。
会えもしない 顔を見ることすら出来なくて
自分の無力と不甲斐なさに愕然としてさ
ま、こっそりルイ様のお屋敷までセレネ様の様子を見に行ったけどね。
出会った頃のようだった…
ビスクドールみたいに感情のない顔して
視点も定まってなかったし…。
飛び出して抱きしめたいと思ったけど…それは、出来なかった。
抱きしめたら 感情押さえられる自信なかったし…。
セレネ様の状況は、ゼノ様によく手紙で伝えている。
あの方は、今動ける状態じゃないからね。
それに 突撃訪問の時言ってた『好きな人がいる』って…
もしかして…もしかしてだけどさ…
一人 中庭の噴水の緣に座って ボーッとしていた。
昼間の日差しは、既になく 太陽も傾き
少しだけ 温度も下がり ふわりと身体に当たる風が噴水の水を掠めているのか 心地よくなっていた。
目まぐるしく 過ぎた 数ヶ月。
胃もたれしそうなほど 色んなことが起きて 自分の容量オーバーだったけれど
人間て案外 順応していくものだ。
何もすることがなく 暇になると悪いことばかり考えてしまうのも人間特有のもので
それならば、せわしなく動いていた方が 落ち込んだり 悩んだりもせず あっという間に時が過ぎていく。
不安など いくらでも作れてしまう。
底まで切羽詰まっていなくても
時間があれば自分の引き出しから 引っ張り出し
不安を作る。
だから 暇な時間は、実は好きではない。
シュタインでは、お城の中にいることが殆どだったが
悩むことなくいられたのは、それなりに詰め込んだ生活をしていたから。
お稽古事や勉強、乗馬。
それがなければ お菓子を作ったり マリアとお裁縫をしたり ピアノを弾いたり…ゼノ様のお手伝いをしたり…。
あの後のルイの邸宅で苛まれるような落ち込みではなく
どこか漠然とした不安…。
私の中で見ないようにしていたものが この時見えた気がしていた。