第15章 shine of the palm
『えっ?!い、今から?!』
紡「はい。急いで戻りますから先に楽屋に行ってて下さい!」
『あ、ちょっと紡さん?!』
パタパタと駆け出した紡さんの姿はすぐに小さくなって見えなくなり、その場に残された下岡さんと顔を見合わせて苦笑した。
下「行っちゃったね。でも、あの子も一生懸命に頑張ってるから仕方ないね。あ、もし良かったら僕が楽屋まで送ろうか?」
『そういう訳には・・・それに私の楽屋はもうすぐそこですから大丈夫です。下岡さん、また今度パンケーキ行きましょう?新しくオープンしたお店のパンケーキが凄く美味しそうなんです』
下「いいねぇ!行こう行こう!あ、その前に佐伯ちゃんも、僕の新番組の初回ゲストよろしくね?小鳥遊さんから快く返事貰ってるよ?」
『はい、よろしくお願いします』
じゃ、とお互いに手を振って別れ、私は自分の楽屋の前まで戻って来た。
けど。
そのドアノブにはしっかりと鍵が掛けられたままで、どれだけ回してもビクリともドアが開くことはなかった。
おーい、紡さ~ん?・・・私、鍵持ってないよ・・・
ここで紡さんが戻るまで待っててもいいけど、まだいつ戻って来るのか分からないし、それだと1人で待つようになるし。
そうなると、もし、また前みたいな事があっても・・・怖い・・・
あ、そうだ電話すれば!
・・・紡さん・・・私の荷物、楽屋の中だったよ・・・
若干途方に暮れながらも、そう言えば・・・と思い出す。
確か下岡さんは、2つ上の階にTRIGGERの楽屋があるって話してたよね。
エレベーターはすぐそこにはあるけど、密室こそこういう時は何が起こるか分からない。
『仕方ない、階段で行こうかな』
誰に言うわけでもなく呟いて、収録で履いたままのヒールを鳴らしながら歩き出す。
今日は衣装は自分持ちで来たから靴も自分のではあるけど、普段ヒールなんて履かないから階段を慎重に上がっていく。
こんな所で転んだりしたら大変だしね。
それにそんな事がバレたら一織さんにまた眉を寄せられちゃう。
怪訝な顔をする一織さんを思い浮かべてクスリと笑いながら、最後の1段を踏み締めた・・・その時。
『わっ!!』
階段の縁にある僅かな段差にヒールが引っかかってしまい咄嗟に手すりを掴むも・・・
『あー・・・やっちゃった、か・・・』