第14章 心の行方
掴んでいた手をパッと離して、僕を真っ直ぐに見る瞳から視線を外す。
なに、やってるんだ・・・僕は。
「ハハッ・・・参ったな・・・」
顔を隠すように手を当て、ぽつりと自嘲を零せば、愛聖さんはまた同じ場所へと腰を下ろした。
『具合いが悪くなったら、ちゃんと教えてくださいね?』
「え・・・あ、うん・・・分かった・・・」
『じゃあ・・・はい、どうぞ?』
僕の前にゆっくりと差し出される小さな手のひらに、言われるがまま・・・僕の手を乗せてみる。
『あ、そうだ。いろんなお話はさっきしちゃったから、眠たくなるまで私の歌を聞いて貰えませんか?いま千に特訓されてる途中だから、上手く歌えるかの保証はないんだけど』
愛聖さんの、歌?
「いいよ。僕も、聞いてみたい」
少しだけ目を細めて言えば、それを見て愛聖さんは恥ずかしげに小さく笑う。
『自分から言い出しておいて恥ずかしい事この上ない気もして来ましたけど・・・じゃあ・・・』
すぅ・・・っと1度深呼吸をした愛聖さんが、ゆっくりとした歌を歌い始める。
なんて・・・優しい歌い方をするんだろう。
けど、それはきっと彼女なりの、誰かを想いながらの・・・歌。
前に見た映画とのタイアップとは、また違う感じの柔らかな歌い方で。
こんな風に歌うことを引き出す千さんはやっぱり凄いな、なんて思いながら彼女の歌声にそっと瞼を伏せてみれば、冷えてしまった僕の心に暖かな風が吹き抜ける気がした。
繋がれた指先から伝わる温度に少しずつ気持ちが溶かされて、伏せた瞼が上がらなくなっていく。
そんな不思議な暖かさに、僕はいつの間にか・・・惹き込まれて行った。