第14章 心の行方
『逢坂さんがいれば今回のような事が何度も起きてしまうかも知れません。でも、だからと言って立ち去ってしまうとか、逢坂さんはそれでいいんですか?家族の反対を押し切って勘当されてまで、大好きだった叔父さんのいた世界を諦めてしまうんですか?私が言うのも変ですけど、みなさんは、今までどんな困難にぶつかっても乗り越えて来たと思います。八乙女社長の引き抜きにあったりとか、ミューフェスでの一織さんの失敗だって・・・みんなで超えて来たんじゃないんですか?』
一「佐伯さん・・・人の傷口に塩を塗り込むのやめて下さい」
苦々しい顔を私に向けながら一織さんが呟くのを、二階堂さんが、まぁまぁ・・・と宥める。
『私だって同じです。八乙女プロダクションから解雇されて路頭に迷ったり、四葉さんと衝突して怪我をしたり・・・それからテレビ局で・・・』
自分であの時の事を思い出して話しながらも、その時の恐怖感がじわじわと浮かび上がり、自分の胸を押さえて息を吐く。
ナ「マリー・・・大丈夫デス。今はワタシが側にいますよ?」
『ありがとうございます・・・ナギさん・・・』
私を気遣ってか、普段のような豪快なものではなく、そっと触れるだけのハグで包むようにナギさんが腕を回した。
『そんな黒歴史たっぷりな私を、みなさんは嫌な顔ひとつせずに受け入れてくれました。だから私はちょっと降板させられたくらい、気にしません。ここは誰かの声ひとつで世界観が変わってしまう場所。自分が自分の気持ちに正直にいれば、きっと誰かがちゃんと見ていてくれる・・・そう思うから。逢坂さんは、それでも自分の気持ちを押し殺して、辞めようと思いますか?』
降板って聞かされた時は、ショックでネガティヴな気持ちにもなったのは確かなこと。
ただ、スポンサーの意向でって言うだけでハッキリとした事は分からなかった。
でも今、その理由もちゃんと分かったし、対処法はいくらでも探し出せる。
壮「でも僕は・・・」
『でもとか、だからとか、そういうの禁止です。私は、逢坂さんが抜けた事で仕事が貰えるようになったとか、そういう風には考えたくありません。今回のことだって、私がスポンサーの意向とだけで切り離されたのは、自分の実力も知名度もスタッフさんに届いてなかったからとも言えるんです』