第14章 心の行方
仏壇にある父さんの写真に、ごめんね・・・って小さく何度も謝る、母さんの背中。
どうして母さんが仏壇の父さんに謝ってたのか分からなくて声を掛けようとしたけど、声を押し殺して泣いている母さんに気付いて、結局は何も言えずに自分の部屋に戻ってしまった。
それから数日の後に八乙女社長から連絡があって、八乙女社長が直接家に来て母さんと話をして、いまの私がいるんだけど。
その八乙女社長が、父さんの仏壇に長く手を合わせてたのも、なんだか不思議な感じがしたのを思い出す。
陸「でも、壮五さんがいまここにいるって事は反対されてたけど、最後は許してくれたとかじゃないの?」
壮「それは違うよ、陸くん。僕はどんなに反対されても、諦め切れなかったんだ。だから、大学を辞めてこの事務所に入ったんだ。その時に勘当されてるから、親子の縁は・・・切れてるんだけどね」
陸「じゃあ、家族を捨てたって言ってたのは・・・」
声のトーンを落としながら言う七瀬さんに、逢坂さんが小さく頷いた見せる。
壮「うん・・・そういう事なんだ・・・」
そんな風にしてまでここへ来た逢坂さんの気持ちは、きっと相当な覚悟もあったんだろうに、それなのに降板の理由に家の事が絡んでいるとなったら、きっと私たちが想像できない程の衝撃があったに違いない。
環「なんで・・・音楽やりたかったんだ?」
さっきとは違い、四葉さんが落ち着いた声で逢坂さんに問いかける。
壮「それは・・・僕の叔父がミュージシャンだったんだ。あまり売れてはなかったけど、子供の頃の僕にとても楽しそうにバンドの話をしてくれたり、歌を教えてくれた。僕は叔父も、叔父の音楽も好きだった・・・だけど叔父も音楽活動は反対されていて、親族からは疎遠にされてしまって」
環「その叔父って人は、まだ歌ってんの?」
何気なく言った四葉さんに、逢坂さんが静かに首を横に振った。
壮「誰とも疎遠になったまま、叔父は体を壊して亡くなってしまったんだ」
大「そう、だったのか・・・」
大好きな人の歌を聞いて、一緒に歌って、だけどその人がいなくなってしまう。
そんな悲しさや寂しさは、私も少しは分かる。
私の場合は、その逢坂さんの叔父にあたる人は万理だけど。
ある日突然いなくなってしまった万理。
それは、今は不思議な縁で万理と再会する事は出来たけど。
逢坂さんの場合は・・・