第14章 心の行方
入院を免れたとは言っても、時間が許される限りは療養をさせてあげたいんだと、社長は続けて話した。
アイドリッシュセブンとしての冠番組がなくなってしまったとしても、MEZZO"としてのスケジュールが消えた訳ではない。
けど、今回の四葉さんの遅刻がきっかけで決まっていた仕事が減ってしまう可能性も皆無ではない。
ただ、それをいま口に出さないのは・・・社長の優しさなんだと思う。
ある日突然、仕事が次々と減って行く。
その怖さは、私もよく分かる。
きっと社長は、いま私がここにいることも気にかけてくれていて、なおかつその話をしないんだろう。
社長が万理の家にいた私に言ってくれた、胸の中にはまだ小さな輝きの欠片があると言う言葉は、聞かされた時には凄く嬉しかった。
孤独と絶望に溺れていて、私自身では分からなかったから。
輝くライトの下から1度は身を外した私を、社長は八乙女社長の元へと出向いてまで、その輝きの中に戻してくれた。
同行させて貰った私は、社長たちの話し合いが始まる前に席を外してしまったから、どんな話し合いがされたのかは詳しく聞かされてはいないけど。
帰る時の社長の表情からして、無理難題な条件は言われてはないだろうと思ったけど。
そもそも私、解雇だったし。
そんな私を拒むことなく受け入れてくれた、社長。
その社長の暖かさが、今度はアイドリッシュセブンのみんなに降り注がれる事を信じたい。
一「佐伯さん、これを」
洗い物を終えてエプロンを外した私に、一織さんが可愛らしいパッケージのハンドクリームを差し出してくれる。
これは確か、店頭で2つセットになって販売していた商品の、片方?
一「学校帰りに、たまたま見つけたので差し上げます・・・べ、別に深い意味はありませんよ」
『ありがとうございます、早速つけてみますね』
平静を装う一織さんに言って、開封する。
きっともう片方は一織さんが気に入って使っているのだろうと小さく笑いを見せ、甘い香りのするクリームを塗り込んでいると、廊下から足音が近付いて来てドアが開かれた。
陸「みんな、ちょっといいかな・・・壮五さんが、みんなに話したい事があるって」