第14章 心の行方
「愛聖のお母さんが?」
そこまで言って、ハッと愛聖から聞いた話を思い出す。
あれはまだ、愛聖がここの寮に移り住む前に俺の家にいた時、俺がいなくなってからの出来事を毎日少しずつ話してくれて。
その中に、愛聖のお母さんの事もあった。
あれは・・・そう、確か・・・・・・
『八乙女社長はいつも仕事が終わると家まで送り届けてくれて、敷地内に入れば大丈夫だからって言っても、車から降りて玄関のドアの前まで一緒に来てくれて』
「へぇ、あの社長って見た目は凄いキツそうなのに、ジェントルなんだね。っと、今のはちょっとオフレコで」
つい、いつも思ってた見た目の事を口走ってしまい慌ててナイショね?と笑う。
『あんまり知らない人から見たら、八乙女社長はそう見えちゃうかもだけど、本当は凄く優しい所もあるんだよ?まぁ、怒ると本気で泣きたくなるくらい怖いけど・・・あ、これもオフレコで』
ちょこんと肩を竦めて笑う愛聖に、お互いナイショができたね?と笑って返す。
『それで、いつもの様にそうやって送って貰った時、普段なら母さんが家に居ても鍵は閉まってる筈なのに、その日はそうじゃなくて。それで、一度、八乙女社長の顔を振り返ってからゆっくりと玄関を開けたの。そしたらそこに、母さんが・・・倒れてて』
その時の事を思い出しながら話す愛聖の声が揺れて、テーブルに置かれたマグカップを両手でギュッと掴む。
『薄暗い玄関の中で倒れてる母さんを見て、頭の中が真っ白になって・・・膝が震えながら駆け寄って、泣きながら母さんを呼び続けて・・・そしたら、八乙女社長がすぐに救急車を呼んでくれて・・・大丈夫だって言って、救急車が到着するまでずっと抱きしめて頭を撫でてくれてて』
・・・そうだ。
あの時、確かに愛聖はそう言ってた。
だから、陸くんと一緒に部屋のドアを開けて壮五くんが倒れてるのを見た時、その時の事を瞬間に思い出してしまったんだ。
大「・・・と、言う訳みたいなんだ」
側についている時に愛聖から聞いたという話を終えた大和くんが、微かなため息を吐いた。
環「りっくんがあの時、マリーが呟いてたって言ってた」
陸くんと言葉を交わしていた環くんが、目を閉じながら言葉を漏らす。