第14章 心の行方
苦しげな呼吸を繰り返しながら眉を寄せる逢坂さんをゆっくりと抱き起こし、せめて少しでも安心して貰えるようにと・・・そっと抱きしめる。
浅く小刻みな呼吸を繰り返す逢坂さんに、あの日の母さんの姿がどんどん色濃く重なって・・・怖くて、とめどなく涙が溢れ出した。
陸「愛聖さん、万理さんすぐ来てくれるって!それから大和さんにも連絡したら、みんなもすぐ来てく・・・愛聖・・・さん?」
逢坂さんを抱きしめたまま微かに嗚咽を漏らす私を見て、七瀬さんが言葉を途切らせる。
灯りをつけないままの部屋に僅かな足音がして、それから七瀬さんが私の横に膝をつく気配を感じた。
陸「愛聖さん、壮五さんはきっと大丈夫だから」
七瀬さんの言葉に小さく頷いては、それでも止めることが出来ない嗚咽が漏れる。
陸「救急車ももうすぐ来るし、万理さんやマネージャーも、それからみんなもすぐに来てくれるからさ・・・だからもう・・・・・・泣かないで・・・」
そう言って七瀬さんが私の背中に手を当てて、戸惑いながらもゆっくり、そっと、撫で続けた。
その手の温かさと優しい感じが、あの時の手と良く似ていて、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
あの日、仕事を終えて八乙女社長に送って貰った家の玄関を開けた時。
灯りもついていない玄関の中で母さんが倒れていて。
動揺して泣きながら母さんを呼ぶしか出来ない私の代わりに、八乙女社長が全てを手配してくれて。
救急車が到着するまでの間、七瀬さんと同じように側に居て、そして同じように・・・黙って背中に手を当ててくれていた。
いまの七瀬さんの優しさが、その時の八乙女社長とも重なって・・・少しずつ、嗚咽も軽くなって行くのを感じた。
やがて遠くから、救急車のサイレンが聞こえて来て。
それから、寮の玄関が騒がしくなって。
万「陸くん!壮五くんは?!・・・愛聖は・・・どうしたんだ?」
『万理・・・逢坂さんが・・・』
聞きなれた声に気持ちが緩んで、また・・・涙が溢れ出した。
万「愛聖・・・もう大丈夫だから・・・ね?」
七瀬さんと入れ替わった万理が私を抱き寄せ、さっきの七瀬さんと同じように背中を撫でた。
紡「大神さん、救急車到着しました!・・・あ、隊員さん、こちらです・・・お願いします!」