第14章 心の行方
三「なんで愛聖までそんなに驚いてんだよ」
『ちょっと、金額の大きさに驚いちゃって・・・実は、私も心当たりがあるんです』
笑いながら私に言う三月さんに、私は自分の鞄からペンケースを探り当て、その中から1本の万年筆を取り出した。
『私がオーディションの書類を寮のリビングで書こうとした時に自分の万年筆のインクが切れかかってるのに気が付いて、それで急いで買いに行こうとしたら逢坂さんが部屋から持って来てくれて』
三「で、そのまま借りパクか?」
『違いますよ!直ぐにお返ししようとしたら、そのまま貰っていいよって。逢坂さんが小鳥遊プロダクションへ出した書類を書く時に使ったやつだから、きっとオーディションも受かるよ、って』
綺麗な彫り細工が施してあるこの万年筆は、とても書き心地が良くて、今でも何かと筆記が必要な時には使ってる。
大「愛聖、その万年筆も・・・スゲー良い奴だ。それ1本で陸が貰ったっていう鞄と同じ位の金額だよ」
『ひゃぁー!やっぱり!!じゃあこれは、ちゃんと逢坂さんにお返ししないと!』
高価なものだと分かった途端、万年筆を持つ手がふるふると震えてしまう。
大「あー、待て待て。ソウがお前にくれたんだから、それは貰っといてやれ」
『でも、インクさえ取り替えれば私は自分のがありますから・・・ほら、ここにちゃんと』
元々の自分の万年筆をペンケースから出して見れば、それを見た二階堂さんが、驚いて瞬きを繰り返した。
大「ちょい待ち・・・お前、それって自分で買ったのか?」
『これですか?いえ、私が買ったものではなくて、前の社・・・八乙女社長から頂いたものです。初めて曲をリリースした時に、ポンっと小さな包みを渡されて、開けたらこれが入ってました・・・それが、どうか?』
八乙女社長がいつもの感じで手渡すくらいだから、それは普段使いにって感じでプレゼントしてくれたものだと思うんだけど。
大「それ、ちょっと見せて貰っても?」
恐る恐る手を出す二階堂さんに、どうぞ?と渡せば、いろんな角度から万年筆を見た二階堂さんが大きなため息を吐いて私に戻した。
『なにか、変なところでもあったんですか?』
二階堂さんがやっていたように角度を変えて八乙女社長から頂いた万年筆を見る。
大「いや、そうじゃなくてな・・・お前がいま持ってるそれ・・・」