第14章 心の行方
社長の勧めもあって、Re:valeのスケジュールに都合が付く時は出来るだけ私が出向いて千のレッスンを受けるようにしようと、夜間の外出も送迎は社長がするという事で今夜も千の家でスパルタレッスンを受けている。
音楽の事となれば、千って豹変するからなぁ。
千「愛聖、いま少しズレた。もう1回」
・・・ほらね。
そもそもボイスレッスンと基礎体力を両方いっぺんにこなそうなんて厳しいって思うんだけど!
百「ユキ、今夜はその辺にしとかないとマリーが疲れちゃうんじゃない?ユキのレッスンの前には、オレと筋トレやってたんだし」
側でずっとレッスンの様子を眺めていた百ちゃんが、ピアノに滑らす千の指をそっと押さえて、ね?と笑う。
千「そうね・・・でも、もう少しだけなら愛聖も頑張れると思うけど?」
どう?と穏やかな微笑みを浮かべながら千が私を見るも、その目は穏やかではない。
むしろ、やるよね?と押し切るようにさえ感じる。
百「だーかーらー!そうやってユキが目で訴えたらさ、マリーだってイヤって言えなくなっちゃうじゃん!それにハード過ぎるのも良くないんじゃない?マリーの喉が潰れたら元も子もないよ?」
鍵盤を鳴らそうとする千の手を完全に捕まえて百ちゃんが言えば、降参とばかりに千は息を吐いた。
千「モモはすぐそうやって、愛聖を甘やかすんだから」
えっと・・・はい?
僅かに口を尖らせて言う千に、私と同じことを思ったのか、百ちゃんが私を見て苦笑を浮かべるも・・・
百「ヤダなぁユキってば、ヤキモチ?オレはユキも大好きだってば!」
にゃはっ!も笑顔を見せながら、百ちゃんが千に抱きついた。
こうなるともう、いつものアレが始まる訳で。
千「ほんとに?」
百「ホントだって!ね、信じてよダーリン!」
千「母さんがそこまで言うなら・・・」
百「もう・・・ホントはダーリンにぞっこんラブだって分かってるクセに!」
キャッキャウフフと仲良し夫婦漫才を始める2人を眺めながら、レッスンが終わるなら社長に連絡しないと・・・なんて思いながら鞄からスマホを取り出す。
・・・も。
千「早めにレッスン終わったからって、まだ帰すつもりはないんだけど?」
スッと伸びてきた千の手に、スマホを奪われてしまう。