第10章 不測の事態
❁❁❁ 千side ❁❁❁
モモの話を聞いて、やはりあの女は怪しかったんじゃないかと眉を寄せる。
何を考えているのかは分からない。
だけど、何かをするつもりだと言うことだけは分かる。
脱ぎかけの衣装もそのままに、僕は鞄からスマホを出して愛聖に電話をかけた。
···出ない。
仕事···じゃないよな。
さっき愛聖とラビチャのやり取りをした時に、事務所で衣装の試着をするんだって言ってたから。
じゃあ、どうして出ない?
鳴らし続けているコールを切ろうとした時、スマホの向こうから愛聖の何とも言えない、のんびりとした声が聞こえて脱力する。
「愛聖、今どこにいる?」
ー 今から寮を出て出かけるところだけど ー
「どこに?」
ー 天に呼ばれて、龍の家だよ? ー
天くんに呼ばれているのに、行き先は龍之介くんの家?
「愛聖、言ってる意味がよく分からないんだけど」
ー だから、天に龍の家に来てって言われたの。電話じゃ話せないから直接会って話がしたいって。よく分からないけど、天が奏音さんのことで話があるって ー
なるほどね···今ので点と点が線になった。
詳しい話は僕も聞きたい。
でも、突然押しかけて行くのも龍之介くんに悪い···とか言ってる場合じゃないな。
ここは交友関係の広いモモに頼んで、僕たちも龍之介くんの所にお邪魔させて貰おう。
「愛聖、ちゃんと車を使って気をつけて行きなよ?ひとりでフラフラしない事。それから道を渡る時はちゃんと左右の確認もする事」
ー 小学生じゃないんだから、そこまで注意しなくてもいいのに···ー
「あぁ、忘れるところだった。知らない人について行っちゃダメだから」
ー 千!! ー
わざとらしく言い付け加えれば、通話の向こうから分かりやすい愛聖のむくれた叫びが届く。
「とにかく···気をつけて」
ー 分かったから、もう··· ー
「よし、愛聖はいい子だ。じゃあね」
フッと笑って言って、そのまま通話を終える。
過保護過ぎるとは良く言われるけど、用心するに越したことはない。
「モモ?頼みがあるんだけど、いい?」
百「頼み?そんなの聞くに決まってんジャーン!」
機嫌よく返事をくれる姿に笑って、これからの事をモモに話した。