第10章 不測の事態
落ち着いて現状を見れば、本当に押しかけてきたファンだとしてソウがあんなに大人しく見てるワケもない、よな。
ってことは、やっぱり。
愛聖だ。
さり気なく腕を解こうと後ろに手を回して、その指先に触れたケガの固定具で確信する。
そんじゃ、反撃開始と行きますか?
「ま、せっかくの勇気だ。オレの部屋で···特別ファンサービス···しちゃう?」
語尾に吐息をたっぷりと含ませて耳元で囁けば、愛聖がビクッと体を震わせた。
弱点はとっくに知ってるってのよ。
『わ、私そろそろ時間が···』
「逃がさない」
慌ててバッと体を離そうとする愛聖を引き戻し、ガッチリとホールドする。
「なんのイタズラだか知らないけど、一瞬でも驚いたオレのときめきを返せ、アホ愛聖」
『バレてたんですか?!』
「あ~···まぁ、そんな感じ?」
最初は誰だか分かんなかったけど···とは言えず、ちょっとだけ視線を泳がせる。
『もうバレてるなら離してくださいって』
「ダーメ。だってさっき言ってただろ?二階堂大和さんに会いたくて···とか?」
『いつも会ってるじゃないですか!ってより、同居状態だし!』
ジタバタともがく愛聖が面白くて、それでも逃がさないぞ?と抱き寄せて···必殺、弱点攻撃をする。
『わーっ!耳やめて二階堂さん!本当にムリだから!』
三「いい加減に離してやれよ、そのうち泣き出すぞ?」
環「マリー、泣くの?」
『泣く泣く!四葉さんお願い、助けて···』
環「分かった、助ける」
愛聖の必死さにタマがヒョイっと愛聖をすくい上げたところでオレも笑い出す。
「どうだ参ったか?」
『···参りました』
ゲンナリした顔で言う愛聖にまた笑って、頭をぽんぽんとすれば、子供扱いはやめろと抗議してくる。
難しいお年頃ってやつか?
「それより、衣装まで用意とか随分と手の込んだイタズラだな」
セーラー服姿を上から下まで眺めて言えば、今度の仕事の衣装の試着をしただけだと返ってきた。
「仕事ねぇ?お兄さんはそういうお仕事来たら、ちょっと考えるけどね」
オレが学生服なんて来たら、怪しさ満載だから。
そう言ってため息をついて、女優も大変な仕事だな?と腕を組んだ。