第10章 不測の事態
それを質問してみれば、監督は上手くなった部分はスタントを使うからって笑ってたけど。
なんだかそれって、出来ないことを前提に言われてる様で変な役者魂をつつかれる。
今から少しでも、練習とかした方がいいのかなぁ。
···やったことないけど。
一「お話中すみませんが、私は中に入っても?」
ひと通りの話が進んだところで、万理の後ろにいた一織さんが遠慮がちに声をかけてくる。
小「ごめんよ一織くん。僕たちだけで話し込んでしまって。それで一織くんの用事っていうのは?」
社長の元へ歩み寄る一織さんと入れ違うように私は社長に挨拶をして、万理と一緒に社長室から出た。
『ね、万理。あのさ、万理ってスケボーとかやった事ある?』
万「また急にどうした?スケボーなんて遥か昔に少しやった事はあるけど···」
『じゃあさ?ちょっとでいいから私に教えてくれないかな?今回の撮影、スケボー乗るシーンが多くて···監督はスタント使うからって言ってたけど、それだとなんかちょっと、違う気がするんだよね···』
出来ないことが恥ずかしい訳じゃない。
ただ、成長の過程があるって事は本人が出来るだけ本編に寄り添える方が、よりリアルさが出る気がする。
万「愛聖がスケボー···ムリなんじゃない?だって愛聖、運動音痴だし」
『う···うるさいよ万理』
万「ほんっとに不思議だよなぁ、あんなにダンスはすぐ覚えて踊るのに、運動音痴とか珍しい体質だよ。そういや愛聖、体育の成績いくつだった?」
ちょっと意地悪な顔で言う万理に、困り顔を見せる。
『その質問にはお答え出来ません』
だって、胸張って言えるような数字じゃないし。
万「うん、知ってる」
『なんで知ってるの?!』
万「愛聖のお母さんに千と一緒に通知表見せて貰った事あるからね。愛聖の運動音痴は私の遺伝子かしら···って笑ってたよ」
お、お母さーん?!
っていうか、千にまで見られてるとか!!
でも大丈夫···千もきっと同じ穴の···じゃないか。
だってRe:valeの曲って、結構ハードな物とかあるから。
万理から聞かされた衝撃の事実に驚きながらも、ちゃっかりスケボーの指導と買い物の付き合いをお願いして、どうせまた着替えるからとセーラー服のままで寮へと戻った。