第6章 BLESSED RAIN
失敗したなぁ···
まさか、降り出してしまうとか。
周りの人達がレインコートを被り始める中で、せめてインカムが濡れないように鞄を胸に抱きかかえ、被っていた帽子を上から被せる。
スタッフルームから出る時に、レインコートを1回出したのがマズったかも。
あの後、万理や社長にチケットの事を話しながら荷物の整理をしてたから、レインコートを入れ忘れちゃったんだ。
インカムやスタッフパスの事ばかり頭にあったから、きっとそれで···
強まっていく雨足に、ほとんどの人がレインコートを着ている。
『ちょっと、寒くなって来た···かも』
日が落ちてからの雨や風が、容赦なく体から体温を奪っていく。
ここから離れて、スタッフルームに戻る?
でも、みんなの頑張りを···ちゃんと最後まで見届けたいし。
雨を降らせ続ける空を見上げれば、所々が光っていてゴロゴロと唸らせている。
イベントにちょっとしたトラブルは仕方ない、か。
そう思い始めた時、空が一段と大きな音を鳴らす。
雷···段々と近くなって来てる。
音も、光も、少しずつ近くなって···やがて···
『···っ!!』
空を引き裂くような音を鳴らして、息を飲むような光を放った。
「ちょっと今の雷ヤバくない?!」
「っていうか見て···ステージが真っ暗になった···近くに雷が落ちたのかも···」
ザワザワとし始める観客席とは逆に、さっきまで眩いライトに照らされていたステージが物音ひとつ立てずに静まり返っていた。
ウソ···さっきまであんなに盛り上がりを見せていたのに!
それに今日はテレビ中継だって入るって言ってたのに!
観客席の列から離れ、端っこの通路でゴソゴソと鞄からスタッフパスとインカムを引っ張り出して装着する。
電源を入れて、アンテナ装置をポケットに押し込み···それから···
『万理!···聞こえる?!私だけど!』
声が届いているかも分からないのに、インカムのマイクに叫び続けた。
万 ー 愛聖?···今どこにいる? ー
繋がった!!
『万理、私はいま観客席の右端の通路にいる。そこから見える?!』
言いながらスタッフルームのある方向に体を向けて、大きく腕を振って見せる。
万理 ー 右端のって···あ、いた、見えるよ!無事で良かった··· ー