第6章 BLESSED RAIN
『じゃあ万理、何かあったらインカムで呼び掛けして?できる限り急いで駆け付ける。鞄にはしまっちゃうけど、すぐに使えるようにしとくから』
スタッフ用のインカムと腕章、それからスタッフパスを鞄に入れながら、帽子を深く被って身支度を整える。
万「まさか愛聖がチケット買ってたとはびっくりしたけどね」
小「僕もだよ。キミはスタッフとして会場に入ってるし、ここからステージが見えるのに」
万理と社長がお互い顔を合わせながら頷いて、そして私を見る。
『いいんです、それで。私もみんなを応援してるし、それにファンのみんなと対等でありたいから。だからチケット発売日にはスマホ握り締めてカウントダウンもしたし、チケット買えた時にはひとりでガッツポーズまでしましたから』
あの時と同じようにポーズを作って見せると万理も社長もそれを見て笑ってくれる。
小「でもチケットが配送された時、よくみんなにバレずにいられたね?寮のポストはひとつしかないから、チケット会社の封筒が届いたらバレちゃいそうなのに」
確かにチケット会社の封筒は派手な印刷が施されていて、素人目にもそういった会社の物だと分かってしまう可能性はある。
けど···
『どうしても秘密にしたかったので、奥の手を使ってしまいました···代償は大きそうだけど、まぁなんとかなるので』
小「代償はって、ちょっと気になっちゃうなぁ」
万「あ、俺もです」
『あはは···内緒です!いいオンナには秘密がエッセンスって言うじゃないですか』
ナギさんみたいなウインクを向ければ、社長はそれもそうだね~と笑ったけど。
万「いいオンナ?う~ん···どこだろう···あ、痛っ!
」
『万理···眼科受診をお勧めするよ。パソコンと睨めっこばっかりしてるから老眼にでもなったんじゃないの?』
万「老眼って、あのねぇ」
べーっと舌を見せて、社長と一緒にケラケラと笑う。
『とにかく秘密は秘密なの!じゃあ私もう行くね?混雑する前に席に着いときたいから』
ポンッと鞄を叩いて、終わったら片付けには駆け付けるからと言い加えてその場を後にした。
会場の外には、たくさんのお客さんがいて。
まだデビュー前だというのに、七瀬さんや三月さんのうちわを持ったファンの女の子達に目を細めた。
私もその中にさり気なく紛れて並び、開場されるのを静かに待った。