第6章 BLESSED RAIN
『クシュン···あはは、ごめんね千。なんか急にムズムズしちゃって。誰かがウワサでもしてるのかな?···クシュン!』
何となくの曲のイメージを考えながら楽器を触っていると、急にくしゃみを連発してしまい、笑ってごまかした。
千「ウワサ話に登場するなら、くしゃみは1回なんじゃない?風邪でもひいた?」
百「それあるかもね。だってあのCM撮ってる時って裸同然だったんじゃない?」
CM···撮影以外は服、着てましたけど。
『···もしかして、見ちゃった?』
千・百「「 もちろんチェック済み 」」
そんな声を揃えてまで言わなくても···
千「モモはさっきも録画してたやつで繰り返し見てたよね」
百「そう!すっごいキレイだなぁって思って見てたんだよ!」
千「···僕よりも?」
ちょっと興奮気味に話し出す百ちゃんに、千がフッと笑って相槌を入れる。
百「ダーリンったらヤキモチ?!もちろんユキはイケメンだし、ジェントルだから男としてキレイだと思ってる!」
千「モモ···」
百「ユキ!」
あぁ、また面倒なオリジナルストーリーが始まった···ちょっとこのまま放置しとこ。
機材に繋がれたヘッドフォンを耳に被せ、紙にメモしたコード進行を眺めながらギターの弦を爪弾く。
この流れで、こんな感じで···と頭の中に刻みながら、ふと歌詞はどうしようかと指を止めた。
この歌の主人公は、誰?
どこへ向けて、何を伝えたいの?
その言葉は、呟き?
それとも、囁き?
···叫び?
いくつかのミニストーリーを思い描きながら、浮かんでくる言葉を胸に留めた。
寮に帰ったら、もう少し考えてみよう。
場所や空気が変わったら、生まれてくる言葉があるかも知れないし。
そう決めると、弦に当てていた指が手持ち無沙汰になり、つい···自分にしか聞こえていない事を確認しながらひとつの曲を弾いてみる。
私の知ってる、あのメロディー。
ここにいるふたりも、きっと音を聞いたら分かるメロディー。
この曲だけは、目を閉じていてもゆっくりなら弾ける。
いよいよサビに差し掛かる時に、弦を弾こうとする私の手を誰かがガッツリと掴む。
驚いて目を開ければ、そこには真剣な顔をした千がいて私の耳からヘッドフォンを強引に外した。
千「愛聖。その曲だけは···やめろ」