第6章 BLESSED RAIN
社長はきっと、俺を帰してからも仕事を続けるつもりだろうな。
愛聖には言わないけど、本当のところ···社長はいま、多忙極まりないから。
けど、紡さんはアイドリッシュセブンのライヴの事で忙しくて代理を頼める状況ではない。
かと言って、俺がという訳にも···
局に出入りすれば、会ってはいけないヤツとバッタリ···なんて事も考えられるから。
ま、千だけど。
「どうしたものか···」
『万理。寮まで近いし、私なら1人で帰れるから大丈夫だよ?』
ふぅ···とため息を吐きながら漏れた言葉に、愛聖が俺を覗く。
『社長のコーヒーも私がやるから、万理は早く帰って休んだら?』
「俺は平気。前は完徹しても元気いっぱいだったんだから。それに、愛聖をひとり歩きなんてさせられないだろ?一応、ちゃんと籍のあるタレントなんだから」
それに目を離してまた転んだりしたら、と思うと余計に···ん?
俺、結構な心配性か?
いやいや、子供の頃から愛聖をよく知ってるからこその、だな。
うん、そうに違いない。
『確かにそうかもだけど、ここから少し歩くだけだよ?だから大丈夫!』
小「万理くんは、心配なんだよね?」
書類に印鑑を押しながら社長が会話に混ざってくる。
『心配?どうして?』
「え?知りたい?」
からかうように笑って、そんなに聞きたいなら教えてあげるよと愛聖の耳に髪を掛けながら顔を寄せる。
「俺が愛聖と離れたくないから、だよ」
囁くように言って、そっと離れる。
「···なぁんてね。ちょっと千のマネしてみ···えっ?!」
軽いジョークのつもりでいたのに、愛聖の顔は湯気が立ちそうなほど真っ赤になっていて俺が慌ててしまう。
『千のマネって···いまの、ちょっと違うかも。だって千はいつも、愛聖···愛し、』
「言えるわけないだろ?!」
『でもいま万理は千のマネって···』
パタパタと顔を扇ぐ愛聖に言いながら、変に出てきた汗を拭う。
小「あ~···万理くん?そろそろコーヒー、お願い出来るかな??」
「えっ、あ、は、はい!すぐに!」
笑いながら言う社長に大きく返事をして、社長室を飛び出した。
···千のマネなんて、するんじゃなかった。