第6章 BLESSED RAIN
千 ー モモは今日、久々にお姉さんと食事するんだってウキウキしながら帰ったよ ー
あぁ、そうなん···だ?
『なんで私が考えてる事が分かったの?!』
千 ー 分かるよ?愛聖のことは。例えば愛聖の好きな物は、お母さんの作った甘い卵焼きに、ケーキに、かわいい雑貨に···そうそう、1番大好きなのは··· ー
『だ、大好きなのは?』
千 ー 僕 ー
『·········』
なんとなくそう言うだろうなとは予測してはいたけど!
『それは千が私を、じゃなくて?』
なんて、いじわるに返してみる。
千 ー ん?僕は愛聖を大好きなんじゃなくて、愛し、 ー
『わーっ!!分かった、分かったから全部言わなくていいから!』
電話同士なんだから誰に聞かれることもないのに焦る私を、向こう側で千は楽しそうに笑っている。
『とにかく、今日は取りに行けそうにないから、近いうちに連絡するよ』
千 ー 愛聖は僕が1人でいても···放っておくの? ー
···いや、元々1人でいるのが好きだったでしょ。
あ、でも。
万理が居なくなって、百ちゃんが一緒にいるようになってからは···そうでもない、かな?
千の隣には、いつだって百ちゃんが寄り添っていてくれたから。
その万理はいま···私と同じ場所にいるんだけど。
それは···言えないから。
『ごめんね、千···』
千 ー 今夜のこと?それなら気にしなくていいよ ー
無意識に呟いた言葉を、千は黙って受け入れる。
『そっか···千は結局、優しいよね』
千 ー どうした急に ー
『別に?あのさ、千・・・いつか、会えるといいね』
千の1番、大切な人に。
そう、言いかけて···言葉をとめた私に、電話の向こうで千は小さな息を吐く。
千 ー ・・・そうね ー
千のその、きっといま万理を思い浮かべながらのひと言に、胸が痛む。
『千?私もちゃんと、千のこと大好きだから』
千 ー 知ってる···フフッ···でもいつかは、愛してるって言ってね? ー
『···考えとく。じゃ、そろそろ切るね?社長も戻って来ると思うし』
千 ー 分かった。じゃ···またね ー
通話を終えて、何気なく窓辺に立つ。
藍色に変わり始めている空には、小さな星が瞬き出していた。