第6章 BLESSED RAIN
監督と最終確認をしてから、それぞれ決められた位置に移動する為に羽織っているものをスタッフに渡す。
それは愛聖も同じだけれど、ちょっとだけ目のやり場に困るというか。
『龍と同じベッドに入るとか、初めてだね。なんかちょっと、ドキドキしちゃう』
それはこっちのセリフだよと返しながら、設定通りにベッドの中で愛聖を包み抱いて目を閉じた。
「よーし、じゃあ始めるぞ!···3···2···」
カメラが回りだして、それと同時に打合せしたストーリーが動き出す。
腕の中で目を覚ました愛聖がオレの髪を軽く梳いて、静かに抜け出る。
ベッドサイドに脱ぎ捨てられたオレの大きなシャツを拾い上げ、羽織りながらテーブルに置かれた飲みかけのワイングラスを手に取り窓辺に立つ。
目を覚ましたオレもベッドから抜け出し、ガウンを羽織りながら歩み寄って、愛聖の手からワイングラスを抜き取る。
愛聖がちょっと驚きながら振り返り、オレに微笑んでグラスに手を伸ばすのを見て、オレが先に口に含み···そのまま唇を重ねて、口移す。
重ねた口端からひとすじワインが漏れて、愛聖の首筋を辿り···胸元へと落ちて行く。
オレはそれを唇を這わせながら辿り、愛聖がオレの首に腕を回す。
至近距離で見つめ合うふたりの背景には、星空に負けないくらいの都会の輝きがあって···
「カーーーーーット!!」
監督の元気な声で撮影が終わった···
「はぁ···緊張した···」
思わず漏らす声に愛聖が笑い出す。
『緊張したのは私だよ。ワイングラスを取り上げた後どうするのかと思ったら···まさか口移しされるとは思ってなかったから』
「それは···ゴメン。どうしようかなって考えてたら、それしか思いつかなかったから。ホントにゴメンね」
『何度も謝られたら···なんか傷付くんだけど』
「ゴメン···あっ」
つい謝ってしまった口を押さえて愛聖を見れば、そんなオレを見て笑い続けた。
『ね、監督がモニターを一緒に見ようって手招きしてる。ニコニコしながら手を振ってるから、きっと一発オッケーだよ』
「そうだといいけど」
そう言って笑いながら、2人で監督の元へと足を運んだ。