第6章 BLESSED RAIN
小「それよりも、はいコレ。監督から預かって来たけど···使う?」
社長が差し出して来たものは、ひとつのチューブで。
『筋肉痛・腰痛・つらい肩凝りに···私、肩凝ってないですけど?』
っていうか、あの監督···腰痛とか肩凝りとかで塗り薬持ち歩いてるの?!
小「肩凝りじゃなくて、痛めた足首にじゃないかな?ゴメンね、さっき僕とぶつかった時にやっぱり捻ってたんだね···」
『いえそれは!···私の不注意ですから』
手洗いに行った帰りに通路の角で社長とぶつかってしまって転んだのは私だし。
楽との撮影の事で頭の中がいっぱいで注意散漫してたから。
小「監督がね?撮影があるから湿布薬は貼って上げられないけど、これを塗っておくのは応急処置になるからって渡されたよ···ありがたく使わせて貰おうか?」
『そうですね。せっかくなので、ご好意に甘えます。もしかしたら撮影の時に、龍が···目が痛ーい!とか言うかもですけど』
それを想像して笑いを浮かべながら、それを早く塗り込んでしまおうとチューブのキャップに指を掛ける。
小「僕がやってあげよう」
ヒョイっとそれを手に取り、社長がキャップを開ける。
『社長!さすがにそれは申し訳ないですから!香りが移るかもですし、それに社長なのに!』
小「だからこそだよ。十くんとの撮影なのに、キミの手のひらがそんな香りをしていたらビックリされちゃうよ?」
だからって、なにも社長が···
小「メイクもしなきゃいけないし、時間は有効に使わなきゃね?···それとも、八乙女のマネとかした方がいい?」
八乙女社長のマネを小鳥遊社長が?!
ちょっと···見てみたい···じゃなくて!!
『あ、いえ大丈夫です、はい。すみません、お願いします』
若干の棒読みになりながらも、おずおずと足を出す。
小「じゃ、いくよ?もし痛かったら、左手とか上げちゃう?」
『社長···それ歯医者です。そして手を上げても治療は止まらないっていう無限ループ』
だよね~、と笑いながら社長が丁寧に患部に薬を塗り込んでくれる。
そのこそばゆい感じに時々首を竦めながら、所属するいちタレントにここまでしてくれる社長も、凄い人なんだと感じていた。
いつか仕事がたくさんこなせたら、紡ちゃんと親子水入らずの温泉旅行でもプレゼントしよう。
そんな事を、思いながら。